愛媛県宇和島市にある明治44年創業の老舗旅館、木屋旅館のリノベーション プロジェクトである。今回は、滞在型旅館として新しい、一日一客という形態を取り入れている。木屋旅館には老舗旅館らしい、すでに長い間かけて蓄積された物語があった。この場所を新しく造り替えたり、何かを足すのではなく、今ある状況から引き算をして行く事で、既にそこにある物語の新しい一面が発見され、それが新しい木屋旅館の価値になるのではないかと考えた。そこで、まず水平方向に視線が抜けている現状の空間に対し、垂直方向に空間を引いていった。2Fの床の3カ所を広い範囲で抜き、畳の代わりに透明のアクリル床に置き換える。さらにその上部の天井を抜き、古い屋根の架構がみえるようにした。老舗旅館に現れた高いところで約8mの高さの断面は、新しい視点を作り出す。日中はこの吹き抜けを通して1Fの床に2F窓からの光が落ちてくる。古いタイル貼りの浴室は昔のタイルをライン状に一部残し、すべて墨色に塗りつぶした。既にそこにあるものの一部の情報を丁寧に抜いていく事で違った見え方が生まれてくる。夜のファサードは障子を通した行灯のような光が、強さを増したり、色が変化したりする。突然、街並みに対しての表情が変化し、その佇まいが宇和島全体へのアクションになる。